Capítulo 1 de 2 · A2 · Fácil
林の武蔵野
Musashino
東京の西には、昔、武蔵野という広い野原がありました。古い地図に「武蔵野のおもかげは、今わずかに入間郡に残っている」と書いてありました。それを読んで、作者は、今の武蔵野はどんな所だろうと考えました。
作者は、明治二十九年の秋の初めから春の初めまで、渋谷村の小さな家に住んでいました。そのころの日記を読みながら、作者は武蔵野の美しさを書いていきます。
昔の武蔵野は、すすきの野原が美しいと言われていました。でも、今の武蔵野は林です。木はおもに楢の仲間で、冬になると葉がすっかり落ち、春になると新しい緑の葉が出ます。霞や雨や月や風や霧、時雨や雪、緑の木かげや紅葉と、一年じゅう、いろいろな景色を見せてくれます。
それまで日本人は、楢のような、葉の落ちる林の美しさを、あまり知りませんでした。日本の文学や絵で林といえば、たいてい松林だったのです。作者に林の美しさを教えてくれたのは、ツルゲーネフの小説を二葉亭四迷が訳した「あいびき」という短編でした。その中には、秋の樺の林で、雨や光や木の葉の音を聞く場面が書いてありました。