Capitolo 1 di 3 · Originale · Impegnativo · B2
水仙月の四日 (1/3)
Il quarto giorno del mese dei narcisi
雪婆んごは、遠くへ出かけて居りました。
猫のような耳をもち、ぼやぼやした灰いろの髪をした雪婆んごは、西の山脈の、ちぢれたぎらぎらの雲を越えて、遠くへでかけていたのです。
ひとりの子供が、赤い毛布にくるまって、しきりにカリメラのことを考えながら、大きな象の頭のかたちをした、雪丘の裾を、せかせかうちの方へ急いで居りました。
(そら、新聞紙を尖ったかたちに巻いて、ふうふうと吹くと、炭からまるで青火が燃える。ぼくはカリメラ鍋に赤砂糖を一つまみ入れて、それからザラメを一つまみ入れる。水をたして、あとはくつくつくつと煮るんだ。)ほんとうにもう一生けん命、こどもはカリメラのことを考えながらうちの方へ急いでいました。
お日さまは、空のずうっと遠くのすきとおったつめたいとこで、まばゆい白い火を、どしどしお焚きなさいます。
その光はまっすぐに四方に発射し、下の方に落ちて来ては、ひっそりした台地の雪を、いちめんまばゆい雪花石膏の板にしました。
二疋の雪狼が、べろべろまっ赤な舌を吐きながら、象の頭のかたちをした、雪丘の上の方をあるいていました。こいつらは人の眼には見えないのですが、一ぺん風に狂い出すと、台地のはずれの雪の上から、すぐぼやぼやの雪雲をふんで、空をかけまわりもするのです。
「しゅ、あんまり行っていけないったら。」雪狼のうしろから白熊の毛皮の三角帽子をあみだにかぶり、顔を苹果のようにかがやかしながら、雪童子がゆっくり歩いて来ました。
雪狼どもは頭をふってくるりとまわり、またまっ赤な舌を吐いて走りました。
「カシオピイア、
もう水仙が咲き出すぞ
おまえのガラスの水車
きっきとまわせ。」
雪童子はまっ青なそらを見あげて見えない星に叫びました。その空からは青びかりが波になってわくわくと降り、雪狼どもは、ずうっと遠くで焔のように赤い舌をべろべろ吐いています。
「しゅ、戻れったら、しゅ、」雪童子がはねあがるようにして叱りましたら、いままで雪にくっきり落ちていた雪童子の影法師は、ぎらっと白いひかりに変り、狼どもは耳をたてて一さんに戻ってきました。
「アンドロメダ、
あぜみの花がもう咲くぞ、
おまえのラムプのアルコホル、
しゅうしゅと噴かせ。」
雪童子は、風のように象の形の丘にのぼりました。雪には風で介殻のようなかたがつき、その頂には、一本の大きな栗の木が、美しい黄金いろのやどりぎのまりをつけて立っていました。
「とっといで。」雪童子が丘をのぼりながら云いますと、一疋の雪狼は、主人の小さな歯のちらっと光るのを見るや、ごむまりのようにいきなり木にはねあがって、その赤い実のついた小さな枝を、がちがち噛じりました。木の上でしきりに頸をまげている雪狼の影法師は、大きく長く丘の雪に落ち、枝はとうとう青い皮と、黄いろの心とをちぎられて、いまのぼってきたばかりの雪童子の足もとに落ちました。
「ありがとう。」雪童子はそれをひろいながら、白と藍いろの野はらにたっている、美しい町をはるかにながめました。川がきらきら光って、停車場からは白い煙もあがっていました。雪童子は眼を丘のふもとに落しました。その山裾の細い雪みちを、さっきの赤毛布を着た子供が、一しんに山のうちの方へ急いでいるのでした。
「あいつは昨日、木炭のそりを押して行った。砂糖を買って、じぶんだけ帰ってきたな。」雪童子はわらいながら、手にもっていたやどりぎの枝を、ぷいっとこどもになげつけました。枝はまるで弾丸のようにまっすぐに飛んで行って、たしかに子供の目の前に落ちました。
子供はびっくりして枝をひろって、きょろきょろあちこちを見まわしています。雪童子はわらって革むちを一つひゅうと鳴らしました。
すると、雲もなく研きあげられたような群青の空から、まっ白な雪が、さぎの毛のように、いちめんに落ちてきました。それは下の平原の雪や、ビール色の日光、茶いろのひのきでできあがった、しずかな奇麗な日曜日を、一そう美しくしたのです。
子どもは、やどりぎの枝をもって、一生けん命にあるきだしました。
けれども、その立派な雪が落ち切ってしまったころから、お日さまはなんだか空の遠くの方へお移りになって、そこのお旅屋で、あのまばゆい白い火を、あたらしくお焚きなされているようでした。
そして西北の方からは、少し風が吹いてきました。
もうよほど、そらも冷たくなってきたのです。東の遠くの海の方では、空の仕掛けを外したような、ちいさなカタッという音が聞え、いつかまっしろな鏡に変ってしまったお日さまの面を、なにかちいさなものがどんどんよこ切って行くようです。