Chapter 1 of 3 · A2 · Easy
ぬれた女
Hanshichi: The Ghost of Ofumi
「わたし」が子どものころ、雨の夜に、Kのおじさんが江戸の化け物屋敷の話をしてくれました。これはその話です。
元治元年のことです。江戸の番町に、松村彦太郎という旗本が住んでいました。ある日、松村の妹のお道が、三つになる娘のお春をつれて、兄の屋敷へやってきました。お道は、小石川の小幡伊織という旗本の家に嫁いでいます。お道は「もう小幡の屋敷にはいられません。離縁させてください」と言いました。
松村がわけを聞くと、お道は泣きながら話しました。七日前の晩、お道の枕もとに、髪をみだした若い女があらわれたのです。女は頭から着物まで、水をあびたようにびしょびしょにぬれていました。武家の女中のように、ていねいにおじぎをして、だまって座っていました。そのとき、となりで寝ていたお春も、急に泣き出して、「ふみが来た。ふみが来た」とさけびました。
ぬれた女は、次の夜も、その次の夜も、あらわれました。夫の小幡に話しても、笑うばかりで取り合ってくれません。お道は「このままでは幽霊に殺されてしまう」と思って、娘をつれて逃げてきたのでした。