昔、越後の道を、めずらしい旅人の一行が歩いていました。三十歳を少しこえた母と、十四歳の姉の安寿、十二歳の弟の厨子王、それに四十ぐらいの女中の姥竹です。親子は岩代の家を出て、遠い筑紫へ流された父をたずねて旅をしていたのです。
直江の浦に着いたとき、もう日がくれていました。泊まる所もありません。そこへ山岡大夫という船乗りが来て、「わしの家に泊まりなさい」と親切そうに言いました。次の朝、山岡大夫は「陸の道は大変だから、舟で送ってあげよう」と言って、四人を小さい舟に乗せました。
でも、山岡大夫は人買いでした。沖に出ると、四人を二人の船頭に売ってしまったのです。母と姥竹は佐渡の二郎の舟に、安寿と厨子王は宮崎の三郎の舟に乗せられました。二つの舟は、だんだん離れていきました。母は舟べりから、「安寿は守本尊の地蔵様を大切におし。厨子王はお父様のくださった護り刀を大切におし」とさけびました。姥竹は「これまでじゃ」と言って、海に飛びこんでしまいました。
安寿と厨子王は、丹後の由良の港に連れていかれ、山椒大夫という金持ちに売られました。大夫は安寿を「垣衣」、厨子王を「萱草」とよび、「垣衣は浜で潮を汲め。萱草は山で柴を刈れ」と命じました。