「おい、地獄さ行ぐんだで!」
蟹工船の博光丸が、函館の港を出ようとしていました。蟹工船は、北の冷たい海で蟹をとって、船の中ですぐに缶詰にする船です。船には、貧しい漁夫や、田舎から来た百姓、炭坑で働いていた男、学生、そして十四、五歳の少年たちが乗っていました。みんなお金のために、遠いカムサツカの海へ働きに行くのです。
博光丸は古いぼろ船でした。漁夫たちが寝る船の中の部屋は、暗くて、くさくて、まるで「糞壺」のようでした。漁業監督の浅川は、とても残酷な男でした。浅川は、人間を人間と思わず、こん棒を持ってどなりながら、みんなを朝から晩まで働かせました。
ある日、嵐の海で、博光丸といっしょに進んでいた秩父丸から、「SOS」の無電が来ました。船長はすぐに助けに行こうとしました。でも、浅川は船長の肩をつかんで言いました。「よけいな寄り道をしたら、一週間がむだになる。秩父丸には保険がついているんだ」。博光丸は助けに行きませんでした。やがて、無電係が言いました。「沈没です。乗組員四百二十五人。救助される見込みなし」。