ある朝のことです。おしゃかさまは、極楽の池のそばを、ひとりでゆっくり歩いていました。池には白いはすの花がたくさんさいていました。花のまん中は金色で、とてもいいにおいがしました。
おしゃかさまは池の前で止まって、水の中をのぞきました。この池のずっと下には、地獄があります。水がとてもきれいなので、地獄のようすがよく見えました。針の山や、こわい川も見えました。
地獄の底には、悪いことをした人がたくさんいました。その中に、カンダタという男がいました。カンダタは人を殺したり、家に火をつけたりした、大どろぼうです。
でも、カンダタも一度だけ、いいことをしました。ある日、カンダタが森の中を歩いていると、小さなくもが一ぴき、道を歩いていました。カンダタは足を上げて、くもをふもうとしました。でも、すぐに思いました。「いや、待て。小さくても、このくもにも命がある。殺すのはかわいそうだ」。そして、くもを殺さないで、助けてあげました。
おしゃかさまは、そのことを思い出しました。「くもを助けたのだから、この男を地獄から出してあげよう」と考えました。
ちょうど近くのはすの葉の上に、極楽のくもが一ぴきいて、きれいな銀色の糸を出していました。おしゃかさまはその糸をそっと手に取りました。そして白い花の間から、ずっと下の地獄の底へ、まっすぐに糸を下ろしました。